渡辺農機株式会社 渡邊 幸洋
今回は、農機領域の事業で活躍をされている渡邊様のビズストーリーをお届けします。
- こんな方におすすめ
-
・農機事業に携わる方
・後継社長の方
・会社を立て直したい方
- こんなことが学べる
-
・倒産危機から会社を立て直すには
・人手不足に困らない採用方法
渡辺農機株式会社 渡邊 幸洋
今回は、農機領域の事業で活躍をされている渡邊様のビズストーリーをお届けします。
3つの事業を展開していますが、メイン事業で言うと明治41年(1908年)に創業してそこから100年以上一貫して農機具を作っています。
創業時は籾摺りをする機械を作っていましたが、その後は「籾・麦・豆・ソバ・なたね等の乾燥施設で使用する粗選機・昇降機・フローコンベア・スクリューコンベア・オーガホッパー等の製造・販売」を行っています。
2つ目は、一昨年前から「建設関係の足場屋さん」として、外壁塗装やリフォーム等の際に使う足場を組み立てて、終わったら回収するという事業をしています。この事業は事業再構築補助金を利用して資材を購入しまして、今2年が終わったくらいのタイミングです。
3つ目は、個人事務所にはなりますが講師コンサルタント業を昨年から始めまして、その第一弾として今回「マネジメントを楽にする ゆるリーダーシップ」という本を出版させていただいたような流れになります。
–ありがとうございます!事業の比重として1番大きいのはどれになるんですか?
やはり農機の事業が1番比重は大きいですね。売上の規模も違いますし。
農機の事業がもっと安定していけば個人の仕事にリソースを割いていきたいとは思っていて、実際にこの数年の間は個人事業の準備期間としてリソースを半々に振り分けていました。
ただ、昨年は農機の売上があまり良くなかったこともあって今年立て直していかないといけないので、振り分けも農機事業を多めにしていこうと思っています。
足場の方がうまく伸びていて、事業自体も私はあまり関与せずにみんなに頑張ってもらっているので、そういう意味でも事業再構築した意味はあったなと思います。
–事業を増やしたりしていく中で、採用は大変ではなかったですか?
私が代表になって16年ほどになりますが、ありがたいことに採用には困ったことがないですね。人が欲しいなと思ったら入ってくれますし、こういう人が欲しいなと思ったら良い人が来てくれます。人手不足が問題だと言われている今も人に困ったことはないです。
ただ、仕事量が減っているときに人が少し多いなという困り方をしたことはありますが(笑)「人の多さ」という長所を活かして仕事の幅を広げたりしていきたいなとは思っています。
–人に困らないのはすごいですね!取材していても採用に困っている社長はとても多いです。
これは本にも書いていますが、弊社は採用の基準が低いというか間口が広いんです。
ある一定の基準は設けていますが、「良い人しか取らない」とか「若い人しか取らない」みたいなこだわりは持っていません。もちろん、難しそうだなと感じたらお見送りすることもありますし、逆に求職者さんから「私には難しそうです」と断られることもあります。
私の基本的なスタンスとしては、「どんな人でも長所があるからそこを活かせる方法はないかな」と考えていますし、そういう会話をします。
ですので、決して応募数は多くはないですがその中でも採用して入社してくれたメンバーが今でも長く働いてくれていますね。
–間口を広げたら入社後のマネジメントが大変そうなイメージですが、そこは渡邊さんが見られているのか、渡邊さんの部下に任せているのかではどちらになるんですか?
私は基本的に見ていないですね。もっと言うと、弊社ではマネジメントはしていないです。入社してすぐから自分を律してそれぞれが何をすべきか、どうすべきかを考えてもらうようにしています。ですので、育たない人もいますし、7〜8年経っても変わらない人もいます。
もちろん、その人がキツそうだなとか、このままだと周りもキツくなりそうだと判断した際は手助けというか面倒を見ることもありますので、何もしていないというわけではないですが程よい距離感で接するようにしていますね。
–ここまで事業を伸ばしてこられた要因ってどこにありますか?
まずは「自分自身が勉強をする」ことですね。
2008年の終わり頃に五代目として代表に就任して今16年目ほどになりますが、スタート時はほぼ倒産状態みたいな感じだったこともあって何をしたら良いのかわからなかったです。ですが、以前知り合いから「経営方針等を一緒に考えましょうみたいな会に出ませんか」と誘われていたことを思い出して、そこに参加してみました。
そこでなんのために経営をしているのかを考えながら4ヶ月かけて経営理念、経営方針を作成していきました。
自分で勉強しながら様々なことを進めていく中で感じたことは、「先代のときは情報共有や改善活動ができていない」ということでした。ですので、「社内での会議を月に1回開いていこう」とか「年間の数字を決めよう」、「社内に委員会を作ってみよう」みたいな形で社内整備を進めていきました。
–これまでしていなかったことを取り入れてみて、社員のみなさんの反応はどうでしたか?
私としては、会社を整えていくことは社員のためにもなると思っていましたが、現実はそうではありませんでしたね。「給料は上がらないのに業務が増えた」という不満から何人か立て続けに退職していきました。
そのタイミングで「会社を見ていただけで、社員を見れていなかった」こと、「社員の声を聞かずに自分だけが発信していた」ことに気づきました。
そこから一歩踏み込んで社員のリアルな声を聞いていったことで、様々な考え方や思いを知ることができたので、それを会社の計画や方針に組み込んでいきました。
結果として会社がうまく回っていきましたし、設計のメンバーが増えて新しい機械にチャレンジしたり、工場の足りない部分を改修したり設備投資をしていったことでかなり伸びていきました。
–なるほど…!渡邊さんが積極的に勉強して行動を起こした結果ですね!
そうですね。まずは自分自身が勉強をしてそれを元に挑戦すること。良いと思ったことは取り入れて、ダメだと思ったら撤退するトライ&エラーを繰り返すこと。その2つをスピード感を持って取り組めたことが1番大きかったですね。
–渡邊さんがお仕事をする上で大切にしていることはなんでしょうか?
「感謝の気持ちを忘れない」「笑顔でいる」「前向きに考える」ですね。
社長になったときに、人生観や価値観として何が大切かなと考えてこの3つが1番大切かなと感じてからこれまでずっとやってきている部分なので、今では無意識にできている感じがしますね。あとは、会社として信頼がとても大事になってくると思うので、そのために現状維持はせずに日々成長することを意識しています。
「社長」と言うとただの肩書きなのかなとは思いますが、「経営者」として考えると組織の中にいる人たちの人生を背負っているわけなので、そこを大事にできる人だと思います。経営を維持し発展させる責任を全うしている人ですね。
あとは、対等な労使関係を構築できている人です。働いてくれる人がいてこその企業ですから、尊重することが大切です。
経営者の責任を果たし働く人を尊重できる人が社長であり経営者だと思います。
–色々なご経験から他の社長へ気をつけるべきことや落とし穴になりそうなことがあればアドバイスをください!
これから社長になる方や既に社長をしている方に対して共通してお伝えしたいのは「フットワークを軽くしましょう」ということです。特に後継者や後継社長は自信が持てないということもあると思います。私も同じような気持ちでしたが、意外と準備がなくてもなんとかなりました。トライ&エラーを繰り返しながら突き進んでいくと楽しめると思います。また現状が厳しい社長や今後バトンタッチを考えている社長の方も行動をしなければ何も変わりません。考えすぎて動けなくなることが一番怖いことだと思います。
もちろん行動を起こせば上手くいかないことや状況がかえって厳しくなることもあります。昨年立ち上げた個人事業も気持ちだけが先行していたので苦労していますし、積極的な設備投資なども外部環境の変化によってきつくなっている部分もあります。それでもやってきたことすべてが経験となりますので、挑戦していくことが大事だと思っています。
–後継者として社長になることと、自分で創業社長になることとではどちらがいいなと思われましたか?
結局は「ないものねだり」なんだと思いますね。創業社長は後継社長に対して「いろいろ揃っていていいな」と言いますし、後継社長は創業社長に対して「やりたいことをできていいな」と言います。私は後継者として社長になったので、自分で何かを生み出すことに憧れて個人事業を立ち上げました。自分のやりたいことだから頑張れる部分もありますが、想像以上にゼロから生み出していくことの大変さを感じています。
後継社長であれば「ヒト・モノ・カネ・情報」と経営資源が揃っています。すべてがプラスではないかもしれませんが、形がある分だけ私はやりやすいと思います。
後継社長の場合は、経営資源の中でもヒトの部分で苦労することが多いと思います。それでもしっかりと向き合うことで苦労を減らすことができますし、頼ることもできますので私には後継社長の方が向いているように感じます。
立ち上げた個人事業をやめて後継社長に注力すると言い出すかもしれませんし、個人事業を拡大させていくことに注力するかもしれません。どちらがいいというよりも「どんな挑戦をしていきたいのか」ということですね。
–渡邊さんのお話を聞いていると、挑戦がお好きな方なのかなという印象を受けますね!
本当ですか。実は元々挑戦は苦手な人間だったんですよね。挑戦の「ち」の字もないほど、何もしなければ何も起こらないというマインドで大人になりました。もっと言うと、人と会話することすら苦手でしたね。
ですが、社長になって様々なことに挑戦せざるを得ない立場になって多くの挑戦をしてきた結果、「挑戦しなければ成長できない」ということに気づいて、今では講師業で人前で話す仕事を始めています。
個人事業を始めたことで会社から離れることが増えてきた今だからこそ特に思うことがあって、やはり私のような人間だったとしても社長である以上、常に会社にいた方が社員のみんなからしても多少安心感があるとは思います。ですが、最近は離れている時間が多くなっていて申し訳ないという気持ちと同時に「こんな状況でも頑張ってくれてありがとう」と伝えたいですね。私が好きに動くことができているのもみんなのおかげなので、とても感謝しています。
-ありがとうございます!ちなみに離れている時間は増えても社員の方との面談はされているんですか?
面談はしていますね。ただ、回数は減ってきていて多いときは年に3〜4回実施していたものが、今では年に1〜2回程度になってきています。ですが、なんでも任せられる会社のNo.2がいますので、足りない分は代わりに面談をしてもらおうかなとも考えています。
今この会社が創業から116周年ほどになっていますが、「150周年になっても会社が存在していること」が目標ですね。中途半端に引き継がせると苦しませることにもなるので、より良い会社にしていくことが使命だと感じています。会社を続けていくためには、一昨年前に始めた足場事業のようにドンドン広げていくことも、状況によっては縮小させていくことも必要だと考えています。150周年のときは80歳を越えていますが、より良い会社にして後継者に引き継ぎ、自身も元気な姿で見届けられたらいいですね。
–地元旭川の人間として、いつまでも続いて欲しいです!個人のお仕事の目標はありますか?
ありがとうございます。
個人の仕事としては、出版した本の売れ行きが思い描いていたような状況ではないので、様々なところに足を運んで講演をしつつ増版がかかるような状態になることが目標ですね。具体的に事業をどうしていきたいとかよりは、この仕事をしっかり成り立たせることを頑張りたいです。
渡邊さんありがとうございました!
100年以上続く老舗企業を引き継がれ、さらに事業を増やしながら挑戦を続けられる姿にインタビューをさせていただきながらとても刺激を受けました…!
私も渡邊さんが出版された本を読ませていただいて、その本の中にあった「社員とは階段を一段降りるだけでは足りず、もう一段降りてやっと揃う」という内容に感銘を受け、おそらく渡邊さんは優しく社員さん思いな方なんだろうなと思っていましたが、まさにその通りでした。言葉の節々に会社のため、社員さんのための思いが散りばめられていて、倒産しかけていた会社を立ち直すことができた理由が伺えました。簡単ではないことを実行できた秘訣がこの取材や本を通して学べましたよ!
みなさんも渡邊さんが出版されている本を購読してみてください!
▼渡辺農機株式会社 HP
http://watanabenouki.co.jp/publics/index/5/
▼著書「マネジメントを楽にするゆるリーダーシップ」
https://www.amazon.co.jp/dp/4827214239
▼個人事務所公式サイト