ビズスト|BIZ STORY

 

「先見の明」で伝統工芸を守り抜く。だんじり彫刻師の100年にわたる挑戦。

株式会社木彫前田工房 前田 暁彦

今回は、彫刻師領域の事業で活躍をされている前田様です。

こんな方におすすめ
・伝統工芸領域に携わられている方
・だんじり関係の事業をされている方
・伝統工芸を守りたいと考えられている方
こんなことが学べる
・伝統工芸を守るためには
・伝統工芸業の会社が生き残るためには

伝統工芸の灯火を守り抜く

事業内容について教えてください。

彫刻師をしています。

メインの事業は「だんじりの彫刻の部分を作る」ことですが、今は「木を彫る」ことであればどのようなものでも作るような事業に変わりつつあります。

ありがとうございます!だんじり彫刻師さんはどこかの専門学校を卒業してなられるパターンが多いんですか?

いえ、だんじり彫刻師はみんな未経験で入ってきて、10年間修行をするというスタンスをこれまでずっと取ってきました。現在もそのスタンスは変わりませんが、今は京都に伝統工芸を教える学校がありまして、そこで様々な経験をしてだんじり彫刻師の世界に入ってくる子も増えてきました。今そこの卒業生が何名か入社してくれていますね。

では、前田さんは元々未経験からこの世界に飛び込まれたんですね!

そうですね。私たちの世代は全員がだんじりが大好きで、だんじりをやっていたところから作りたいに変わっていって、作ることに関しては未経験の状態から彫刻師の門を叩くみたいな流れでした。伝統工芸の学校を卒業して入ってきてくれている子も、門を叩くまでの流れは違いますが元々だんじりが好きで入ってきてくれています。ただ、この4月に入社してくれた子に関しては私たちも初めてのパターンで、「だんじりを全く知らないし見たことすらない」という子なんですよね。どうしてこの世界に入ってきたのかが不透明なので教育方針をそうしようか悩んでいるところです(笑)

彫刻師さんの世界に限らずどの業界でもそういう方はめずらしいですね(笑)

そうなんですよね。やはり仕事ですし業界柄的にも辛いことは絶対にありますし、心が折れそうになることも少なからずあると思います。私の場合は「だんじりが好きでいつか作れるようになりたい」というモチベーションがあったから続けられましたが、その子の場合はどのようにモチベーションを保っていくのかなという不安はありますよね。

ただ、弊社はだんじりだけではなく様々なものを作っていますので、そういう小物等を作ることに楽しさを見出してくれればだんじりを好きになれなかったとしても、一生懸命頑張ってくれるのではないかなと思っています。

それに、何も知らないからこその考え方や意見等が出てきてくれたら嬉しいですし、頑張りたいというマインドを持っている子なので、期待していますね。

「先見の明」で業界を覆す挑戦

競争優位性について教えてください。

ここまで事業を伸ばしてこられた要因ってどこにありますか?

「先を見て新しいことに挑戦してきたから」ですね。

私は元々個人事業主として12年間だんじり関係の仕事をしていましたが、だんじり専門の大工さんの下請けとして働いていたので、目の前のことをやるだけの状態でした。ですが、私は先のビジョンを見ることが得意だったこともあって「このままではダメだ」と感じて「業界初のホームページ」を作成したり、「置物」や「記念品」の制作を始めていきました。だんじりの仕事が忙しくて誰も手を出していなかったことに積極的に取り組んで行ったことで、法人化した後も何の抵抗もなく様々なことに挑戦することができてホテルさんとつながれたり従業員を雇ったりしてここまで来られたかなと感じています。

すごい…!業界の常識を覆して来られたんですね!

そうですね。「これをやってみたらどうかな」と思ったらとりあえずやってみて考えるようにしています。わからないなりにも頑張っていれば何かしらの方向性が見えてきますし、新しい話も入ってくるようになってきます。まずは行動あるのみです。

投資や挑戦を止めてしまうと会社はドンドン弱くなっていきますよね。でもそのせいで日本は今少しずつ落ちていっているのかなと感じます。私はそんな会社にしたくないので、ドンドン挑戦していきたいと思っています。

成長ドライバーについて教えてください。

-これから事業を伸ばしていくにあたってやった方がいいこと・効果がありそうなことってありますか?

会社のブランディングをしっかり作っていって、社員のみんなとコミュニケーションを密にとることで会社の方向性を定めていく必要があると感じますし、それが会社として次のステップにいくためには不可欠な要素だと思います。

これから弊社は絶対に大きくなると思っていて、それも1年〜2年くらいの話かなと感じています。ただ、そうなるためには先ほどお話ししたステップが必要ですし、外部の人を入れて研修を実施したり会社の中身を整備していきながら乗り越えていきたいと思っています。

本当は昨年の今頃くらいから外注先を探してはいたんですが、考えれば考えるほど答えがわからなくなってきて、今少し落ち着かせているような状態です。またしばらくしたら本格的に着手していくつもりです。

世間のイメージを作る「ブランディング」はとても大切ですよね。どういう会社になっていきたいみたいなイメージは湧かれているんですか?

そうですね。「100年後にハイブランドと呼ばれる会社にしよう」と考えています。

今では誰もが知る某ハイブランドも最初は工芸系の会社でしたが、世の中の移動手段が馬から車に変わったタイミングで会社の方向性を変えていったことで、ハイブランドへと成長していきました。

今弊社も同じ状況に立っていると思っていて、だんじりの仕事が激減してきている中で上手く会社をシフトチェンジして間違えることなく乗り越えていくことができれば必ず「100年後も残るハイブランド」になっているはずなんです。ですので、このタイミングでの私のハンドル捌きが非常に重要になってくるわけです。100年後にハイブランドになっているかどうかが決まりますからね。

前田さんがそこまで頑張れる根源はなんですか?

その質問はよく聞かれますね。

休みも取らずに夜遅くまで会食したり、人に会って話をしたり「どうしてそこまで頑張れるんですか?」と聞かれることが多いですが、すべては「伝統工芸を残す」という使命感です。このままでは伝統工芸がなくなってしまいますので、なんとしてでも残していきたいと考えています。

お客様の「想像を超えるサプライズ」を

『企業哲学』について教えてください

前田さんがお仕事をする上で大切にしていることはなんでしょうか?

「お客様に良い意味でサプライズをする」仕事をすることですね。

大前提としてお客様に喜んでもらえるような仕事をしないといけないですが、「普通に喜んでもらってる」くらいでは次につながらないですし、長続きしません。

私たちは「お客様が思っている以上にプロ」ですので、お客様の想像を超えるような+αの喜びを感じてもらう仕事を心がけています。

それが今の前田さんを作られているんですね!

そうですね。起業して17年経ってここまで来られているのは、私たちがお客様の想像を超えるサプライズを提供してきたことで、リピーターになってくれてそこから紹介でつながってということを繰り返してきたからだと感じています。

前田さんの思う『社長』とは?

「会社のアイコン」ですかね。会社の顔とも言いますね。

社長次第でどのような形にも変わるのかなと感じますし、しっかりと会社をいい方向に持っていくため「常に先を見る」ようにしています。

これは子どもの頃からできていて、少し先のことが見えるんですよね。そこから逆算して計画を立てて行動していくことで上手くハマることが多いので、これは私の特性であり経営者向きの考え方なのかなとも思います。

先が見えるってすごい特性ですね…!

不思議と昔から10年くらい先のビジョンがカラーで見えて、それが本当に当たるんですよね。ただ、今の時代はこの先なにが起こるか予測不能なことも多いので、今は3年〜5年くらいで区切って見るようにしています。これは仕事に限らずプライベートのことでも同じで、家で紙に書いて「マップ」を作っています。「こことここを組み合わせてこの結果になって最終的にこの目標を達成する」みたいな形で勝ちパターンが見えています。

ですので、今の会社のことも同じようにマップを作って勝ち筋を見ているような状態です。

色々なご経験から他の社長へ気をつけるべきことや落とし穴になりそうなことがあればアドバイスをください!

「ポジティブな発言をする」ですね。

私も「必ず成功すると確信している」のでポジティブなことしか言いません。ネガティブなことを発するとそれだけでかなり損していますし、良い方向に向くことのほうが少ないと思います。なにか悪いことが起こっても発想を転換させて良いように解釈しながらポジティブに生きた方がいいと思います。そうすることで周りにポジティブな経営者さんたちが集まってきますし、その結果みんなで上にのし上がっていけますよね。

「世の中には失敗なんてない」と思いますし、「何があってもすべて経験に変わる」ことがほとんどですのでそのマインドを持ち続けられるかが鍵だと思います。

メンバーに「本当は伝えたいけど、伝えられていないこと」

日々本当に感謝していますね。

私がいつも海外を飛び回りながら仕事を取りに行けているのは会社を支えてくれるみんながいるからです。それに、これは私が指示をしてそうなっているわけではなく、「自主的に私がいなくても会社が回るように頑張ってくれている」ので本当に助かっています。

ですので、新しく4月から入社してくれる子にもこの文化を教えていきたいなと思っています。「会社内でのポジショニングを取りながらチームとしてパフォーマンスを高めていけるようにしていこう」と伝えていきたいです。

私としても、その子の能力を少しでも早く見極めてあげて活躍できるように伸ばしていけたらなと思っています。

そこまで考えられている前田さんの会社で働ける従業員さんは幸せですね!

私の周りの経営者さんもみなさん同じようなことを考えられているので、そこを考えられる人が経営者なのかなと思いますね。個人事業主時代はそんなこと考えていなかったので、当時は経営なんてできていなかったなと感じます。

これからの夢や目標を教えてください

会社を「ブランド化」することでみんなから憧れられる会社になり、伝統工芸士を「コンサル」できる存在になりたいですね。

私が早く成功することで周りに成功体験を話せるようにならないといけないと思っていましたが、伝統工芸士を守るためには私が成功することを待っていられるほどの時間がないと最近になってとても感じるようになりました。

ですので、今からでも話せることを発信することで「伝統工芸士を含め、技術職を守ること」につなげていきたいです。

まとめ

前田さんありがとうございました!

前田さんのお話を聞いていて、古き良き伝統である「だんじり」を守るため、「伝統工芸士」を守るために奮闘されている姿が鮮明に浮かんできました。

様々な社長さんにインタビューさせていただいた中で「業界を守りたい」「業界を変えたい」という強い思いを持たれている方も多いですが、みなさん共通することは「その業界が心から好きであること」だと感じました。仕事だけに限らずスポーツ等でもそうですが、「好き」という気持ちが何かを変えていくんだなと改めて感じることができ、私も仕事への向き合い方を今一度見直していきたいと思います。

伝統工芸という日本の良い伝統は。業界の人だけではなくみんなで守っていくべきものだと思いますので、このビズストを通して少しでもお力になれたらと思います。

次回のインタビューもお楽しみに!

株式会社木彫前田工房からのお知らせ

▼株式会社木彫前田工房 HP

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株式会社木彫前田工房

代表取締役 前田 暁彦

2008年に大阪府岸和田市にて木彫前田工房創業。 大阪南部を中心に行われる“だんじり祭り”で使用される山車の一種“だんじり”に施される木彫刻(だんじり彫刻)を主として製作する。 躍動感のある動きと繊細な細工が特徴であり、題材は「神話」、「軍記物」、「動植物」など多岐に渡る。300年以上続く伝統技術を現在にまで引き継いでいる。 だんじり以外にも一般的な山車、神輿、布団屋台、社寺建築など彫刻が伴うものに関しては数多く製作する。 2021年1月には大阪市内に工房を移転、法人化を行う。個人経営が主流である伝統工芸業界において、事業拡大・多分野への進出による伝統技術の持続的継承を目指している。 2021年5月に完成した「日光東照宮三日月分霊神輿」では、神輿全体で日光東照宮を表現し、現在ではダナン三日月リゾート&スパにて展示されている。 作品はだんじり、神輿といった専門分野だけでなく、個人や企業向けとしてオーダーメイドの置物、表札、看板、インテリアなども多く受注し、製作する。 2022年には株式会社カプコンの人気ゲーム“モンスターハンターライズ”とのコラボで、ゲーム内で使用される太刀を再現し、好評を得た。 2Dから3Dまで幅広く対応する技術の高さが評価されている。   また、活動は国内だけにとどまらない。2019年から欧州を中心に展示会や美術展に多く出展し、積極的に海外展開を行う。 2022年には、家業イノベーション・ラボとJAPAN BRAND FESTIVALのコラボレーションによる日本のものづくりの海外展開を支援するプログラム「Craft Runways 2022」に採用され、オランダ人デザイナー、キャロル・バーイングス氏との協業を開始した。半年以上をかけ日本とオランダを行き来しながら試作を重ねた結果、2023年に木製プレート「Plated by Carole Baijings for Maeda Woodworks」を発表した。4月には、海外向けオンライ受注会にて販売を実施、9月にはオランダ現地での販売を行い、好評を得る
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