株式会社オーダースーツSADA 佐田 展隆
今回は、オーダースーツ小売領域の事業で活躍をされている佐田様のビズストーリーをお届けします。
- こんな方におすすめ
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・スーツ事業に携わる方
・小売業に携わる方
・事業方針転換を迷われている方
- こんなことが学べる
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・事業方針を転換する勇気
・独自性を出す考え方
株式会社オーダースーツSADA 佐田 展隆
今回は、オーダースーツ小売領域の事業で活躍をされている佐田様のビズストーリーをお届けします。
工場直販でお客さまにフルオーダースーツをお届けする事業を展開しています。
国内では宮城県大崎市と中国の華北省に100%子会社の工場を持っていて、当社以外の会社さんは1社も間に挟まずにお客さまにお届けしているところが特徴になっています。
–私もスーツを着る機会が多いですが、フルオーダースーツって価格的にも敷居が高く感じますよね。
そうですね。日本では特にフルオーダースーツの敷居を高く感じている人が多いと思います。元々は父が会社の社長をしていて百貨店さんにスーツを卸していましたが、当社は加工費1万5千円ほどで卸しているのに百貨店さんは10万円以上で販売をしている影響で、フルオーダースーツの敷居がどんどん高くなっていきました。ですので、当時からもし私が会社の人間として働いていくことになれば「敷居が高いとされている概念を変えよう」という気持ちでいました。
現在は自社工場直販の形を取ることで相場よりも安価にフルオーダースーツを提供することができていますので、今後さらに増やしていくことで概念を変えていきたいですね。
–今はオーダーではない既製スーツを着ている方も多いと思いますが、フルオーダースーツを着ていることが当たり前の世の中にしていきたいですね!
日本人は「おもてなし」の精神を世界で1番持っていると思います。
しかし、某スーツ量販店が一気に伸びて安価なオーダーではない既製スーツが主流になったことで、どのようなシーンでも既製スーツを多用することが増えました。それにより、体に合っていないダボダボしたスーツを着ている人が増え、私個人の感覚ですが「相手への礼儀が欠けている印象」を受けました。ビジネスシーンや冠婚葬祭等、どのようなシーンでも体に合ったスーツを着てきちんとした格好でいることが礼儀だと思いますし、おもてなしの心の表れの要素の1つだと思いますので、そのような意味でもフルオーダースーツを広めていきたいという気持ちがあります。
バブルが崩壊した影響で売上の半分以上を占めていた百貨店さんの1つが倒産してしまい、当社も倒産寸前まで追いやられました。そのときに金融機関からの支援を継続させるためには「後継者を明確にしてください。」という指示が金融機関から出て、私が選ばれたという背景になります。
私としても、幼少期から必死に頑張る祖父や父の背中を見て憧れていましたし、尊敬もしていたので「手伝ってくれ」と頼まれたときは嬉しかったですが、帰ってみたらほぼ倒産状態で正直驚きましたね。しかし、父と「このまま終わらせてしまったら天国の祖父に合わせる顔がない」という話をしてとにかく少しでも利益が出るように様々なことに取り組みました。
その結果、半年後に黒字化して1億7千万円ほどの利益が出ました。頑張れば意外となんとかなるものだと思っていましたが、そのタイミングで衝撃の事実が判明しました。
–たった半年で2億円近い利益を出したことがすごすぎます…!その衝撃の事実とはどのようなものでしょうか?
「粉飾決算が発覚した」というものです。父が金融機関にも隠していた借り入れや未払いが発覚し、結果的に自己破産をしないといけなくなりました。しかし、父は「会社を残したい」という想いが強かったので、家を含むすべてを差し出して会社を残しました。会社を残せたからと言って我々が会社に残ることはできず、別の会社さんに引き渡すことになったので1年間かけて引き継ぎを行ったのちに会社を去ったという流れになります。
–なるほど…!ですが現在社長として経営されているということは戻ってこられたということですよね!
そうですね。その後数年経ってから東日本大震災が起こり、東北が大ダメージを受けたことで主力の卸先だった東北のテーラーさんがほとんど営業不能になり、大赤字になったことをきっかけに会社に戻ることになりました。
大赤字になったことですべてのスポンサーさんが手を引いてしまっただけでなく、金融機関が話を持ち掛けても「そんな大赤字の会社はいらない」と、どの事業会社さんも取り合ってくれず困り果てていました。その際に金融機関が当社の工場メンバーや営業メンバーに話を聞いたところ「佐田さんならなんとかしてくれると思う」と私の名前が多数出たことで私が呼び戻されたという背景になりますね。様々な方々のおかげで今の私がいると感じています。
–ここまで事業を伸ばしてこられた要因ってどこにありますか?
「小売を始めたこと」です。
当時は売上の9割が卸業によるものでしたが、震災によって卸先がなくなったことで売上が3分の1にまで減ってしまいました。そこから卸業で売上を上げていこうと思っても、全国のテイラーさんの高齢化が進んでいることや震災の影響も大きく、中々難しい状況でした。
そのような背景から「ここから巻き返すには小売りしかないだろう」と思い、小売業を始めましたが、最初はとにかく大変でした。卸先だったテイラーさんたちから猛反発されたり批判を浴びたりすることはもちろん、方針の大幅変更により営業部長や経理部長といった会社の幹部たちが次々に退職していきました。
–幹部の方々がいなくなるのは会社にとってもかなりの大ダメージですね。
仰る通り大変なことは多かったですが、逆に幹部層が入れ替わったことで私の意見や考えが浸透しやすくなり、小売業も徐々に軌道に乗って売上が伸びてきた頃には社員のみんなも「社長の考えは間違っていなかった」と賛同してくれるようになったので、結果的には粘り強く方針をブラさなくて良かったと感じています。
-これから事業を伸ばしていくにあたって課題になりそうなポイントはありますか?
どのような状況にも対応でき、独り立ちできるレベルの「スタイリスト」と呼ばれる社員を育てていくことが課題だと感じています。
一般的なアパレル業であれば、店頭に並べられている既製品の中からお客さまが好みの服を選んで購入するという形です。しかし、当社のようなフルオーダースーツの小売となるとお客さまから発注があった後に初めて作り始めるため、形のないものをお客さまに説明して購入いただかないといけません。例え説明がうまくいって購入いただいても、イメージと違うスーツを作ってしまったら即クレームにつながることもあるため「私には向いていません。」とやめていくことも多いです。ですので、その修行期間を乗り越えてもらい、スタイリストまで育てていくことが1番の課題だと思いますね。
–採用に関する課題はビズストのインタビュー内でも多く出ていて、どの業界にも正解はないんだなと感じます。
本当にその通りで、正解がないのでなんとか最適解に近づけるように日々試行錯誤していくしかないです。
当社も「スーツやおしゃれが好きな人」を中心に採用したり「人とコミュニケーションを取ることが好きな人」を中心に採用したり「体育会系の人」を中心に採用したりなど、採用テーマを変えながら試行錯誤していますが、そのテーマに当てはまったとしても人それぞれバックグラウンドが違うため、うまくいく人もいればうまくいかない人もいて中々難しいと感じます。
–佐田さんが経営をする上でこだわっていることはなんでしょうか?
「自社にしかできないこと、自分にしかできないことをやり続ける」ことです。
小売業を始めたときから持ち続けている「日本一、フルオーダースーツを安価に市場へ提供する」という信念もそうですし、「フルオーダースーツの敷居を下げる」こともそうですし、当社だからこそやるべき価値のあることを今後も続けていきたいです。
私のような変わった人間の考えや思想に異を唱えず、賛同して一緒に頑張ってくれていることにとても感謝しています。
私は「全従業員の物心両面の幸福を追求する」ことを1番大切にしていますので、この想いを実現することで私からのみんなへの感謝を形にしたいと思っています。
全員がそうとは言いませんが、日本人の多くの人が既製品よりもフルオーダースーツを着た方が格好よくなると思っているので、もっと多くの人に手にとって欲しいと思います。
そして、その先に「日本人のスーツの着こなしはとても素敵だ」「素敵な着こなしで出迎えてくれる日本人のおもてなしの精神は素晴らしい」と世界中の方々に思ってもらえるような世の中にしていきたいです。
▼株式会社オーダースーツSADA HP